お江戸郊外の廃屋に、うっかり湧いてしまった妖怪豆腐小僧。「豆腐を持って立っている小僧」というだけの、何の意味もないお化けである彼は、むやみにあちこち彷徨っては様々な妖怪たちと出会っていく。お盆の豆腐が落ちないように注意しながら。
妖怪小説の大家が、真正面から「妖怪」を書いた作品です。
あらすじ自体は「豆腐小僧が間抜けにうろちょろしてはあちこちで変な騒動に巻き込まれていく話」で、わかりやすい説明が難しいのですが、主に主人公のおかげで大層波瀾万丈であることは保証いたします。
さらに講談というか落語調の語り口といちいち理屈っぽい(誉め言葉)妖怪談義の数々が面白くて、どんどん読み進められます。個人的に、この著者の独特の理屈っぽさが大好きなのです。また、妖怪たちは読者の人間視点だとものすごく些細に思えることに大騒ぎしたり、逆に大事のはずのことを何とも思わなかったりして、その感覚のずれが絶妙です。
登場する妖怪たちが口々に、実に饒舌に語ってくれる自身の存在意義。鳴屋、死に神、滑稽達磨、化け狸、猫又、納戸婆、管狐……彼らはいったい何故存在する(いや存在はしないんですが)のか? それぞれ読むだけでも楽しいです。ちなみに、主人公以外の妖怪たちは皆非常に論理的に語ってくださいます。妖怪ってみんな頭が良いのでしょうか。
そんな中、豆腐小僧はどこへ行くのか。どこへ行ったところで意味はないのですが、意味がないという形で深い意味がある……かもしれません。と、禅問答のようなことを言い出したくなる豆腐小僧の冒険(?)譚、妖怪好きなら是非どうぞ。(河内長野店 樽野)
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出版社/メーカー
KADOKAWA
ISBN/JAN
9784043620081