織田信長に反旗を翻した荒木村重の立てこもる有岡城で、人質の少年が監禁された納戸の中で見えない矢で貫かれて殺された。それを皮切りに次々に起こる怪事件。
村重はその解決のため、土牢に幽閉した織田方の軍師・小寺(黒田)官兵衛に密かに相談を持ち掛ける。官兵衛はそれに答えて助言を与えるが…。
戦国の世を舞台に、巡る因果は何をもたらすのか。
第166回直木賞受賞作です。歴史小説としてもミステリとしてもものすごい読みごたえのある作品です。
形としては「安楽椅子探偵官兵衛の出すヒントをもとに村重が事件を解決する」パターンが繰り返される連作ミステリなのですが、何よりも村重と官兵衛、ふたりの対話シーンに毎度息を吞みました。ミステリとしての謎解きをうっかり忘れそうになるほどの迫力があります。
共に戦国の傑物同士、一方は迫る信長との対決を前に味方は次々と離反し頼みの援軍は来ないという状況にあり、もう一方は幽閉されて自ら死ぬことすらできず衰弱してゆく身。違った意味で追い詰められつつある中、格子を挟んで睨みあうふたりは果たして本当はどちらが「牢の中」にいるのか。ただ普通に話しているだけでもその場の壮絶な緊迫感が伝わってきて、ふたりきりの命がけの戦としか思えません。
官兵衛はまさに知恵と言葉だけを武器に戦っているし、村重もまた、己の信念を貫こうと全てを尽くしています。基本村重視点で書かれているので彼に感情移入して読んだのですが、官兵衛の想いも強烈に伝わってきて、乱世の荒波に翻弄されざるを得ない人々の境遇が本気で憎くなりました。
そして彼らの運命は……。その後の歴史を知っていても、希望ある未来を願わずにはいられません。(河内長野店 樽野)
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出版社/メーカー
KADOKAWA
ISBN/JAN
9784041113936