人の悪口は本来言ってはならぬもの、とはいえ人間であれば腹の立つことがあればつい出てしまうのもまた当然。文豪と呼ばれる文学史上の偉人たちであってもそれは同じ。
彼らは他人を罵るとき、どんな言葉を使ったのか。そこには美しく昇華された作品よりも遥かにその人間性がストレートに現れていて、新たな魅力が発見できる……かも。
芥川賞をくれない川端康成に対する太宰治の抗議(?)、誰彼構わず絡みまくる中原中也、菊池寛と若手作家たちの非難合戦、日記に嫌いな作家の悪口を書き続けた永井荷風。いや、本当に、こう言っては不謹慎かもしれませんが面白いです。さすがに、「刺す」とまで言っちゃうのはもはや悪口ではなく脅迫な気がしますがね太宰先生。
中には『文藝春秋』大正13年11月号に掲載された「文壇諸家価値調査表」なる、今こんなことをやったら炎上では済まないであろう代物もあるのですが……まあ「資産」だの「好きな女」だのの項を見る限り気合の入ったおふざけなのだろうと思われるとはいえ、どういった根拠で付けた点数なのか制作者の直木三十五先生にぜひおうかがいしたいところです。
悪口というよりも「批判」と呼んだ方が良いようなものも多いですし、また一章が設けられている宮武外骨の仕事などは「風刺」と呼ぶべきなのでしょうか。そして、どうあれ「他人を悪く言う」にもきちんとやろうと思えばセンスが要るんだな、としみじみ考えさせられました。
何しろ文豪の方々なので、どの「悪口」も文章力や語彙力がものすごいのです。喧嘩するときの参考に、などと色気を出すのは凡人は諦めた方が良いかもしれません。中原中也が太宰治に言ったという有名な「青鯖が空に浮かんだような顔」など、さすが大詩人と言うべきか、とてもとっさに思い付けそうにありません。それは一体、どんな顔なのでしょうか……。(河内長野店 樽野)
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彩図社
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9784801303720