きっと私は世界を理解したい。そのための手段が、食べ物だったのだ。
人より貪欲に食べることを愛し、ひたすらにそれを表現する言葉を紡いできた筆者が、ありとあらゆる食べ物への思いを詰め込んだエッセイ。
*本書を空腹時に読むことはおすすめできません。自分で自分に飯テロを見舞って七転八倒する羽目になります。くれぐれもご注意ください。ただし満腹時でもあり得ますのでどのみち御覚悟願います。
グルメものでなくとも、文章を読んでいて食べ物の描写がとても魅力的で、「ああ、この著者は食べることが好きなんだな」と感じることがあります。その究極形のようなエッセイです。食べ物は食べれば消えてしまう、それを何とか残したくて食日記を付けるようになったという著者は、まさに食べ物のためにこれほどの語彙力と表現力を培ってきたわけで、その溢れかえる愛と情熱には圧倒されるばかりです。
世界的に知られた名店から特に個性がないゆえに一期一会の喫茶店まで、尖った前衛アートのようなメッセージ性の強い一皿からペットボトルの紅茶やブルボンのお菓子まで、とにかく食を通じて世界を捉えるアンテナが鋭すぎて唸ることもしばしばです。
さらには「著書をきっかけに知り合った人に連れられて行った隠れ家レストランが、子どもの頃近所にあって憧れながら行く機会がなかったお店のシェフが趣味的にやっている店だった」というエピソードなど、もう食の神様に愛されているとしか思えません。紹介される名料理人たちもすごいですが、この著者も同レベル以上にすごい人ですよ!
食べることは生きること、食べることを愛するとは生きることを愛することなんだな……と、しみじみ思えます。
ちなみにタイトルの主張について(詳細な内容は本書をどうぞ)。私は昔から強固な「一番美味しいものは最後にとっておく派」なものでこの発想は全くなく、目から鱗でした。今度ショートケーキを食べる機会があったらぜひとも最初の一口は背中部分をいただいてみます!
(河内長野店 樽野)
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出版社/メーカー
新潮社
ISBN/JAN
9784103557616