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ジョーカーゲーム

柳　広司(著/文)

　
かつて「魔術師」と恐れられたスパイだったという結城中佐によって、陸軍内に密かに設立されたスパイ養成機関＜D機関＞。軍人ではなく民間からエリート青年を登用し、「死ぬな、殺すな、とらわれるな」という、軍隊の在り方に真っ向から反する戒律を唱える彼らは、猛反発を受けながらも着実に、目覚しい成果を上げてゆく……。

　頭脳明晰で語学から掏摸までありとあらゆる技術に精通したスパイたちが活躍する、スパイ・ミステリ短編集。
　世界各地を舞台に、決して表に出ることなく全てを操る天才たちの頭脳戦が繰り広げられる様が手に汗握る面白さです。とにかく何でもできるすごい奴がどんな苦境も見事切り抜けていくような話ばかりかと思われるかもしれませんが、そんな天才が思わぬところで足を取られ、「失敗」と言える結末になる作品もあるのがとても好きです。彼らも人間なんですね。彼らを指揮する結城中佐も、おそらく「結城」という名も本名ではないと思われ、素性も過去も全て謎に包まれていて、超人的な才覚と傲然たる自負心の持ち主である部下達からすら畏怖される怪物じみた人物ですが、ごくたまに見せる人間味らしきものがとても魅力的です。特に、シリーズ二冊目『ダブル・ジョーカー』所収の『柩』がグッときました。ひとつ気になるのは、＜D機関＞のモデルは実在したスパイ養成機関である＜陸軍中野学校＞とのことですが、本当にこんな訓練をしていたのでしょうか。正直、凄まじすぎて「ついていける人、現実にいるの？いたとしたら人間じゃないのでは？」と言いたくなったのですが、果たして真相やいかに。スパイって、すごいんですね。(河内長野店　樽野)