1945年初頭。空襲の脅威にさらされる東京で、洋装姿の若い女性の首吊り自殺が連続し、華やかなスカートが広がる様から「釣鐘草の衝動」と呼ばれて話題になっていた。彼女たちには洋裁を教える「ドレスメーカー女学院」の生徒であるという共通点があった。
鑑識の第一人者・吉川澄一は他殺を疑い、写真の専門家である巡査の石川光陽と共に調査を開始する。
「この時代、この戦時下において、洋服を着て外を歩くのは非常に勇気がいるんです」「ファッションは戦いなのよ」「私には女性を美しくする義務がある」……登場人物たちが語る言葉です。彼らは皆、それぞれのやり方で、戦っています。戦争という、限りなく凄惨で圧倒的な暴力と戦っています。
「吉川線」(絞殺被害者が抵抗のために自身の首筋を引っ掻いてつける特徴的な傷)の提唱者である鑑識技師の吉川は犯罪捜査をすることで、写真家の石川は戦時下の生と死を撮り続けることで、石川の妻は家族の生活を守ることで、洋裁を学ぶ女性・若葉千世たちは「エレガンス」な洋装で街を歩くことで、美容師の八並は物資のない中手を尽くして求める女性たちにパーマをかけることで、小説家の永井は時代に迎合する作品を書かないことで。今にも爆弾が落ちてきて何もかもが、自分自身すらも焼き尽くされるかもしれないと知りながらも、決して折れることなく。
ただ自分の仕事を全うし、好きなお洒落をすることが命がけの「戦い」になってしまう世界そのものに胸がつまりますが、だからこそ彼ら彼女らの覚悟と矜持は目映いほどに壮烈で、崇高ですらあります。
そして、そんな時代でなければ生まれなかったであろうあまりにも悲しい狂気に、うなだれざるを得ません。もちろん、それらの全てをただ無慈悲に踏み潰していく戦争にも。
ミステリとしての謎解きの楽しみよりも、「世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするために」戦う人々の物語に圧倒されました。戦争の耐えない時代の、平和なこの国で、今だからこそ読んでほしい作品です。(河内長野店 樽野)
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出版社/メーカー
河出書房新社
ISBN/JAN
9784309039749