書店員の書いた本は数多くあれど、本書のように、実際に書店員が本を売る為にどういった仕事をしているのかを具体的に書いた作品は今までに一冊もなかったのではないだろうか。
本書は、芳林堂、パルコブックセンターを経て、リブロ池袋本店にて人文書、理工書、商品部、仕入等を担当を経験し、36年間書店の現場で書店員として働いてきた、矢部潤子さん(以下矢部さん)の本を売るために養ってきた技術の全てが対談形式で語られている。
入荷した本を店頭に並べて展開し、接客して販売をする。言葉にしてしまえば、簡単な単純作業に捉えられてしまいそうな書店員の仕事。その書店員の仕事の全てに対して、書店員が何を考え、どういう根拠の元に一つ一つの作業が行われているのかについて、丁寧に答えてくれている。
それはまるで高級な生地を使って仕立てられていくスーツのように、丹念に心を込めて語られる言葉は、同職の書店員や出版業界に携わる全ての人達にとっては必読の書となり、一般の読者にとっては、本を売ることに四半世紀以上の人生を費やし、試行錯誤をし続けてきた玄人の半生を辿る一冊にもなり得るだろう。
本書を読めば、貴方が知っている書店への知識はたった一つの側面でしかない事に気づくだけではなく、店頭でで陳列されている本がどのような意図で平積みされているのか、棚の並び方やスリップ、オビ、といった、今まで気にかけることさえ無かった様々な側面を知れることになる。
本書が読者にとっての、書店に足を運ぶ楽しみを増やしてくれる一助になることを切に願う。(文教堂 青柳)
フェア/カテゴリ
書店員おすすめ
出版社/メーカー
本の雑誌社
ISBN/JAN
9784860114381