日増しに陽が落ちる時間が早くなり、夜の肌寒さを感じ始め、冬の到来を肌からひしひしと感じ始める。
今年は想像できないようなことばかりが起こった一年で、濃密に過ぎるくらいだったのではないかと思う。
こんな前代未聞ばかりが起こった今年を、「こんな年もあったよね」と、さらりと何気ない会話で語り合えるような日が来て欲しいと切に願う。
『きのうのオレンジ』は、当たり前の日常が、癌の宣告を受けて当たり前ではなくなってしまった青年の闘病の日々を綴った物語だ。
病を扱った作品は数多く、ありふれてしまって「よくある物語」と思われるかもしれないが、病は人にとっては避けることの絶対にできない関心事でもあり、この世に生を受けた瞬間からの宿命でもあるからこそ、普遍的なテーマなのだと思う。
この物語が強く胸を打つのは、沈みかける夕陽の目を伏せたくなる位の眩さのように、精いっぱいにその日、その瞬間を生きる遼賀の言葉や行動の一つ一つが、「どうしてこんなに良い人を、病は奪い去ろうとしているのか」という、切実なる残酷さがひしひしと伝わってくるからだ。
病が当たり前の日常を奪っていく残酷さを、私達は今年一年で嫌という位に学んだと思う。
けれど、そんな非日常に決して慣れてはいけない。
この物語は、本を閉じた時に二度と戻ることのないかもしれない、「今」という日常を噛みしめるために生み出された、奇跡の産物なのかもしれない。(文教堂 青柳)
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出版社/メーカー
集英社
ISBN/JAN
9784087717280