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楽譜と旅する男

芦辺拓/著

芦辺拓が面白い。



第一回鮎川哲也賞を受賞してデビュー以来、ミステリー作品を中心に多くの文学賞の候補に入り、様々な媒体で行われている小説の年間ベストの常連に入る等、常にクオリティーの高い作品を輩出し続けている。



昨年には本書の続編にあたる『奇譚を売る店』で、有志書店員による第十四回酒飲み書店員大賞を受賞。今年の春には本の雑誌社発行の月刊誌『本の雑誌』の四月号にて、「芦辺拓ならこの十冊だ!」という特集を組まれる等、ミステリファンだけではなく、新規の読者も増え続けている、これからの活躍が楽しみな作家の一人だ。



芦辺拓の代表作といえば、デビュー作『殺人喜劇の13人』での登場以来、数多の作品に登場する森江春策を中心にしたミステリー小説が有名。『異次元の館の殺人』(光文社)では、解決しかけた事件が次元の歪みによって何度もリセットされてしまうという驚きの設定で、ミステリー小説の常識をいとも容易く覆した。これは様々なジャンルの小説に精通している著者だからこそ成せる高等技術だろう。そして芦辺拓は推理小説だけでは満足しない。蒸気機関が蔓延する広大な空想世界の中で本格ミステリーを描く『スチームオペラ』(東京創元社)や、明治から平成へと時代の移り変わる中での人々の営みを描いた長編小説『新・二都物語』(文藝春秋)等、手がける作品のジャンルは幅広い。



その中でも『奇譚を売る店』から始まる幻燈小劇場シリーズの第2作にあたる本書『楽譜と旅する男』は、芦辺作品の中でも最もやっかいな作品かもしれない。



前作では古書店で奇書、珍本を購入しては本の中に迷い込む、現実と非現実の狭間を行き交う連作ミステリーだった。その続編にあたる本書では、前作のような決まった舞台はなく、主人公の「私」はロンドン、ザルツブルク、そして上海と、国境を越えて様々な場所に赴く。本書の主人公にあたる「私」は、何故に楽譜探索人として世界各地を旅しているのか。その素性は冒頭では殆ど明かされることはなく、謎の多いままに物語は展開されていく。本書は連作短編集でありながら、ミステリーの要素もあり、幻想小説や時代小説の要素も含まれていて。複数のジャンルを横断しながら様々な物語を展開していくのだが、不思議と統一性があるのも本書の特徴であり、魅力の一つだ。



著者の過去の作品に、短編や掌編をまとめた『迷宮パノラマ館』(実業之日本社)という作品がある。この作品でも、ミステリーだけではなく、オカルト、SF、冒険活劇等、ヴァラエティ豊かな小品で読者をお出迎えしてくれるのだが、こちらは連作ではなく、全く関連性のない作品が数多く掲載されている。けれど不思議とこれも絶妙なバランスで一つの作品として成り立っているのだ。本書を含む幻燈小劇場シリーズを読んで気に入った読者は、是非とも『迷宮パノラマ館』も手に取ってもらいたい。この『迷宮パノラマ館』の延長線上に『奇譚を売る店』、そして本作『楽譜と旅する男』へと連なる芦辺作品の世界の拡がりが覗けることだろう。



ここまでの解説を読んで、本書が初見にはちょっと難解な、ハードルの高い作品だと勘違いされてしまっては困る。


要約してしまえば、著者が今まで培った読書遍歴から、自由奔放に描いた、どんなジャンルにも当てはまらない、最高の物語だということ。だから読むときの気構えや詮索なんて一切不要だし、勿論前作にあたる作品とのリンクは全くないので、本書から安心して読んで頂きたい。きっと、楽譜探索人の「私」と様々な地へと楽譜を巡る旅をして歩いているうちに、いつのまにか物語の虜になっているはず。



最後に、本書の一篇、『三重十字の旗のもとに』という作品の後半にこういう一文がある。



「犯罪者は芸術家であり、探偵はその後を追う批評家に過ぎない」



犯罪者も探偵すらも存在しない、本書のような世にも不思議な奇譚集を作り出した著者は、批評家ではもちろんないし、芸術家と呼ぶにはちょっと小奇麗すぎる。虚構の上にさらに虚構を塗り固め、手品のように読者を未だかつてみたことのない世界に連れ去ってくれる著者は、「物語の奇術師」と呼ぶに相応しい。これからも未だかつて見たことのないような奇術で読者を驚かせては欺き、そして大いに楽しませ続けて欲しい。


(2019/6/28「本がすき。」掲載:文教堂 青柳)




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    光文社




  • ISBN/JAN


    9784334778613







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