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ライフ

小野寺史宜/著

小野寺史宜の『ひと』は、両親を亡くして孤独に生きる青年・聖輔が、砂町銀座で出会った人々との触れ合いの中で、先行きの見えない未来に希望を見出し、前向きな一歩を踏み出すまでを描いた、瑞々しく真っ直ぐな気持ちにさせられる作品だった。『ひと』は2019年度の本屋大賞にノミネートされた。惜しくも大賞授賞には至らなかったものの、本屋大賞ノミネート常連作家が大勢いる中での第2位という大健闘は、自分のことのように嬉しかった。



この本屋大賞の発表を機会に、「小野寺史宜」という作家を知ったという人も少なくないだろう。そして『ひと』を読み終えた読者は、次は何を読めばいいのだろうと思っているのではないか。そんな気持ちに応えるようにして、著者の最新作『ライフ』がポプラ社から発売された。



本作の主人公・幹太は、最初の就職先で上司からの執拗ないじめに耐え切れずに退職し、コンビニと結婚式の代理出席のアルバイトを掛け持ちして生活している。



「他人にお金を払って身内のふりをしてもらう。他人からお金をもらって身内のふりをする。世界は空っぽなのだと思う。」


この、他人の結婚式に出席している時の幹太の心情が書かれた冒頭の一文は、仕事や人間関係に上手くいかない現実、先行きの見えない未来といった、幹太の気持ちを最もよく表している。



他人を信用できずに心を閉ざし続けている幹太は、親元を離れて一人で暮らしている。その幹太の住んでいるアパートの二階へ、戸田という名の男性が二人の子供を連れて引っ越してきたことを機に、幹太の生活は強引にかき乱されていく。



その発端の一つとして、幹太の部屋の真上に位置する戸田の部屋から聞こえてくる大きな騒音がある。この毎日のように続く騒音から逃れるために、一般的にはどういった選択肢があるだろう。大家や管理している不動産会社に苦情を入れるか。又は、騒音を出している本人へ、怒りを顕にして直接訴えるのか。若しくは、諦めて我慢し続けるか、賃貸契約の更新月を待たずに引越し先を探すのか。幹太はこの二階からの騒音に対して、苦情を訴えることも、引越し先を探すこともしなかった。いや、正確に言えば、どの選択肢も選んでいる余裕すらない程に、戸田親子が他人という距離感を一気に縮めてきたのだ。けれど、部屋の留守番や子供の面倒を半ば強引に任され、流されるままに戸田親子との親交を深めていくことによって、幹太の閉ざされた世界は、少しずつ明るく拡がっていく。



戸田親子に心を開きはじめた幹太は、当たり前のように戸田親子と一緒にご飯を食べたり、時にはダラダラとくだらない話をしながらお酒を酌み交わしたりすることさえもある。著者の他の作品でもよく描写されている、この「ダラダラとくだらない話をしながら酒を飲む」という戸田親子との会話劇が、今まで重たくて暗い話が続いていた展開に弾みを効かせ、物語にユーモアを与えてくれているのだ。



終盤、空っぽでつまらなかった幹太の世界に暖かい温もりを与えてくれた戸田親子は、アパートから引っ越していくことになる。戸田親子が残してくれた、「短かったけれど、かけがえのない時間と経験を与えてくれた思い出」は、幹太にとって明るい未来を約束してくれるものではない。けれど、「他人の生活に関われることの尊さ」を知ったことで、これからどんな困難や苦境に苛まれようとも、きっと大丈夫という自信を持てたのではないだろうか。



人と人との繋がりが幹のように太くなればなる程に、その生活の枝葉は強く逞しい広がりを見せてくれるに違いない。そして、いつか離れ離れになったとしても、それぞれの生活は続いていくし、共に過ごした時間は思い出になっていつまでも私達の背中を後押しし続けてくれるだろう。



実りある人間関係は、人々の心を潤し、生活を豊かにしてくれる。たったそれだけのことでさえも、人情の機微に疎くなってしまった現代社会に生きる私達にとっては、実現することが難しい。『ライフ』の中で生きる幹太達の生活は、そんな私達が忘れてしまいがちな人と人との繋がりの大切さを教えてくれた。



断言する。本書は今までで最も小野寺作品らしい長編作だ。そして、これまでの小野寺作品の集大成と言っても過言ではない作品になるだろう。


(2019/7/5「本がすき。」掲載:文教堂 青柳)




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  • 出版社/メーカー


    ポプラ社




  • ISBN/JAN


    9784591170472







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