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鉄腕アダム

吾嬬竜孝/著

2019年の「このマンガがすごい!」で5位、そして「マンガ大賞」で大賞に選ばれた『彼方のアストラ』(篠原健太・作)が今年の夏にアニメ化された。難破した宇宙船で惑星を渡り歩いていく設定は、初めてSF作品に触れる子供達にも分かりやすく、次の目的地の惑星へと向かう度に胸を高鳴らせてくれた。その物語の明快さの中に「犯人捜し」という王道的なミステリの要素を取り入れ、少年少女だけではなく大人にも一筋縄ではいかない謎解きの醍醐味を堪能させてもらった。



今年は文芸に於いても劉慈欣の『三体』が話題になって盛り上がり、映画では先日に延期に次ぐ延期を経てようやく公開された『アド・アストラ』も好評を博していて、今年は多くの媒体で良質なSF作品を見る機会が多い年だったのではないだろうか。



様々なSF作品が話題になっている中、冒頭で触れた『彼方のアストラ』とほぼ同時期に「少年ジャンプ+」にて連載されていたSF作品、『鉄腕アダム』を紹介したい。



物語は西暦2045年の近未来を舞台に始まる。



アメリカとイスラムの熾烈な戦いが終局し、アメリカとの世界の覇権争いに敗れた中国は内部分裂を起こす。その影響で勢力を拡大させ始めたロシアとアメリカは二度目の冷戦を迎えて、世界はいつ訪れてもおかしくはない第三次世界大戦への恐怖に怯えていた。



温暖化に伴う生態系の変化や異常気象によって大気汚染は拡大し、深刻な致命傷を負って崩壊寸前の地球。そして人類は新たなる住処として火星への移住を始めていた。



生き延びるための活路を見出したかにみえた人類だったが、女体を模した謎の飛翔体「蝶」が次々と地球を目指して襲来。「蝶」を倒すため、人類は人型のヒューマノイド「アダム」を開発して立ち向かう。そんな人類の生き残りを賭けた戦いが始まった最中、「蝶」の飛来と共に15年前に突如姿を消した伝説の天才ハッカー「サイコビリー」が、軍の内部データをハッキングしようとしてきた可能性が浮上する。



イラストレーターでもある著者のシャープな描写も相まって、宇宙を舞台にしたダイナミックなバトルや美麗な描写についつい目を奪われてしまうが、本書の魅力は目に見える部分だけには留まらない。



あくまでも本書は近未来の地球を舞台にしたフィクションだけれど、その殆どの設定が現在の科学技術に基づいていて、「近い将来に訪れるかもしれない未来」を描いている。それは作中のコマワリの枠外に頻繁に書かれる専門用語の注釈や、話の区切り毎に挟まれた科学技術の解説、そしてサイエンス書の紹介からも、本書の連載を始める前に膨大な科学書等を読み潰してきたのかが分かるのではないだろうか。



書名通り、ヒューマノイドのアダムは手塚治虫の名作『鉄腕アトム』の「アトム」のように人の心を持っている、一見すればどこにでもいるような好青年だ。彼は作中でミサイルや戦闘機、核兵器以上の戦闘力を誇りながらも、趣味は読書。好きな作家は村上春樹。捨て猫を拾ってきた場面では、村上春樹の大長編作品『ねじまき鳥クロニクル』の主人公の妻が飼っているペットから名前を借用して「サワラ」と名付ける。そしてアダムの開発者のジェシー・マスクウェルとは、時にはくだらない冗談で盛り上がり、時には互いの命や守るために身を挺して助け合える、家族のような強い絆で結ばれているのだ。



この戦闘兵器でありながら生命の尊さや人間の心を感受できるアダムの視点で描かれた本書は、全四巻の連載作品としては比較的短い物語の中に、多様化する戦争、自然環境の破壊に伴う大気汚染や、動植物の減少と度重なる異常気象等の世界中が結束して取り組んでいる多くの問題に対して、SFの立場から真正面から向き合い、最後に一つの答えを提示する。それは物語の核心に触れる内容なのでここでは伏せておくが、とにかく最高に清々しく気持ちを昂らせてくれたコミックは初めてかもしれない。とにかく計算し尽くされた伏線を積み重ねた上で訪れる、他に類を見ない驚愕のクライマックスを是非一人でも多くの方に読んで欲しい。


(2019/10/15「本がすき。」掲載:文教堂 青柳)




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  • 出版社/メーカー


    集英社




  • ISBN/JAN


    9784088807713






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