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言葉の温度

イ・ギジュ/著 米津篤八/訳

まだ冷たい風が吹きすさぶ時もあるけれど、陽の温もりはかじかむ指先に確実に春の訪れを予感させてくれる。


今からビジネスマナーや敬語に関する本を読み、改めて言葉の使い方を意識し始めている四月から新社会人になる若者も多いだろう。



本書は上司への敬い方や、先方への気遣いの作法を教えてはくれない。けれど一度読めば、何気ない会話の中の一言の伝え方や受け止め方を広げてくれるはず。



「言葉にはそれぞれの温度があります。温もりと冷たさの程度が、それぞれ違うのです」



これは本章が始まる前の序文に綴られている一文。本書は書名にもなっているこの「言葉の温度」について、誰でも経験したことのあるような日常の一場面や、映画を中心に様々なカルチャーを見聞きして著者が体験して感じてきたことを、「言」、「文」、「行」という三つのテーマに沿って執筆したエッセイだ。



本書の中には、昨秋に『真実』が公開されて話題になったのが記憶に新しい、映画監督・是枝裕和の『海街diary』、『そして父になる』。他にも本屋大賞を受賞した三浦しをん原作の『舟を編む』や角田光代原作の『紙の月』等の日本の映画作品について触れて書かれた文章もあり、 翻訳作品で本書ほど日本の風土やカルチャーについて深く掘り下げて書かれている作品は類を見ないだろう。



小林薫が主演してTVドラマや映画化された『深夜食堂』で有名な漫画家・安倍野郎が書いたエッセイ、対談集・『酒の友 めしの友』の中でも書かれているが、本作でも触れられている『深夜食堂』は韓国でも大人気で、ミュージカルにもなっている。



著者は様々な映画や小説などのフィクションの中から抒情的な要素を捉え、些細な心の機微をも逃さずに頭の中で咀嚼し、誰が読んでも分かりやすい言葉で語り聞かせてくれている。だからこそ、本当に翻訳作品なのかと疑ってしまう程にリーダビリティに優れた作品だ。


本書の中に、「誰かにとって、かけがえのない人」という一ページにも満たない短いエッセイがあり、その中では公衆トイレの壁に貼られた文章について触れている。



「トイレをきれいに使ってください。


ここを掃除してくださる方たちは


誰かにとって、かけがえのない人たちです」



最初の一行まではどこの公衆トイレでもよく見かける文章ではあるが、その後の二行が書き加えられただけで、いつも公衆トイレが綺麗に掃除されて当たり前のように使用できることに特別性を感じるだろう。



この現代社会において、私達は他者とのコミュニケーション無しで生活している訳では絶対にない。公衆トイレ一つ利用することでも、掃除をしてくれた誰かにとってのかけがえのない人に感謝の気持ちを少しでも抱いていたい。



「『自分を知る』のは価値のあることだ。自分を正しく知ってこそ、世の中をバランスよく見ることができるし、自分の傷を知ってこそ、他人の傷を理解できるからだ」



これも本書に収録されているエッセイ「悲しみにひざまずく」の一節。



私達は他者との会話の中で、内から湧き出てくる思いを相手に伝えようとするほんの一瞬、または数秒の間にどんなことを考えて、感情を言葉に置換しているだろうか。



誰もが他人同士なのだから互いの全てを理解し合うことは不可能だろう。けれど、自分が経験したことのある悲しみならば、分かり合うことができるかもしれない。本書は、日常の中で当たり前のように使ったり受け止めたりしている言葉や、仕草の奥に込められた気持ちを知ることの大切さを本書は教えてくれた。



「ただかけてみただけ」、「何となく送っただけ」



そんな家族や友人からかかってきた電話やメッセージ一つを取っても、その言葉の奥に見える感情は、あなたへの真心と愛に溢れている。


(2020/2/25「本がすき。」掲載:文教堂 青柳)




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    光文社




  • ISBN/JAN


    9784334962340







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