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いずれすべては海の中に

サラ・ピンスカー/著 市田泉/訳

ここ数年、竹書房の文庫に注目している。


特にSFのラインナップが良い。


巨大な竜の上を舞台にしたルーシャス・シェパードの代表作『竜のグリオールに絵を描いた男』復刊の際には、歓喜の声を挙げた。イスラエルのSF作品を集めた『シオンズ・フィクション』は、書店で目にしてすぐに手に取り、衝動買いした。他にも、眉村卓のSF作品集『静かな終末』は、どの収録短編も良作だったし、猫をテーマにしたSFを集めたアンソロジー『猫は宇宙で丸くなる』は、ユーモアに溢れた作品集で楽しませてくれた。



じゃあ、竹書房のSFで何かおすすめはありませんか?


そう尋ねられたら、私はまずこの作品をおすすめするだろう。


『いずれすべては海の中に』



私は、今年刊行された海外作品の中でも、指折りの作品だと思っている。何故ならば、世代や国境を越えて、大なり小なり抱えている、生きていることへの息苦しさをテーマにしているからだ。


実際この数年間、より息苦しい生活が世界中で続いている。今を生きる全ての人達がシンパシーを感じる物語をこの短編集の中から見つけ出し、これからの未来を生きるための拠り所となってくれることを保証する。



最初の短編は、事故で身体が切断され、最新の技術で作られた義手をつけられた男の話から始まる『一筋に伸びる二車線のハイウェイ』。この男の義手は、何故か道路とつながってしまうことになるのだが、その経緯と顛末は是非実際に作品を読んで確かめて欲しい。



他にも、文明が滅び、大型船の中で生活をすることを強いられ、制限された生活圏の中でもより良い生き方を模索する人々の人生を描いた『いずれすべては海の中に』。祖母が亡くなった後、粘土と金属でできた祖母と瓜二つのロボットと生活をすることになった女性の生活を描いた『彼女の低いハム音』。自動車に負けず劣らずの猛スピードで走る車を乗り回して旅をしながら仕事をする男『イッカク』。並行世界で生きるサラ・ピンスカー(著者と同名)が一同に同じ空間に集まる世界で発生した殺人事件を、1人のサラ・ピンスカーが推理していくミステリー『そして(Nマイナス1)人しかいなくなった』など、本書のラインナップはバラエティー豊かだ。



この奇才(と言っても過言はないだろう)サラ・ピンスカーは、同じく竹書房文庫で刊行されている、『新しい時代への歌』という音楽小説で、アメリカの権威あるSF・ファンタジーに与えられるネビュラ賞を受賞し、世界的に注目された作家だ。この作品は新型コロナウイルス感染拡大前に、テロと感染病の影響で人々が対面することが難しい世の中を描いた作品だが、今の世の中をとてもよく表している。もし興味があれば、一読して欲しい。



この『新しい時代への歌』を発表する前に描かれたのが本書である。国内での刊行の順番は、『新しい時代への歌』の方が先ではあるが、まずは本書を読んで欲しい。きっと、国内作品では感じることのできない世界観を存分に楽しめるはずだ。



ここ数年の大きな生活スタイルの変化で、小説と現実の世界のズレが拡がり、違和感を抱くことが多くなってきている気がする。



けれど、この違和感は決して悪いことではなく、かつてあった日常をまだ頭と身体が記憶している証だと私は解釈している。この忘れてはいけない違和感を保ち続けるためにも、小説や映画等の物語の世界を否定することなく受け入れて吸収していくことが、今を生きる私達に必要な心への栄養補給だと思う。



そういう意味において、本書は最高の栄養補給を読み手にもたらしてくれるはずだ。


(2022/12/19「本がすき。」掲載:文教堂 青柳)




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  • 出版社/メーカー


    竹書房




  • ISBN/JAN


    9784801931176






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