日々をまどろむように過ごす、施設に暮らす高齢の女性。
その夢に吸い込まれるように読者は時をさかのぼる。
戦争が少しずつ庶民を飲み込んでいった時代。
東京銀座の、とある出版社には熱い思いを「友」(=読者)に届けようとした人々がいた。
主人公ハツは元気印の女の子だ。
当時のことである。パワハラ・セクハラが横行する理不尽な男社会でもあるだが、持ち前の敢闘精神で周囲の人たちから次第に信頼を得ていく。
美形だが冷たい主筆。影のある優しい挿画家。妖艶な詩人や心を許す同僚らと生きる、非日常下の日常。
緩急自在な筆致が、今そこに自分もいるような錯覚に陥らせる。
七転八倒に笑い、仄かな思いに寄り添い、次第に暗さを増す世情には憤りを覚えるだろう。
そして、やがて時空を超え、遥か彼方からメッセージが届く。
“Sincerely yours”に込められたい思いがゆっくり胸に広がる。
今日、戦争がまた世界の日常を飲み込みつつある。
この小説の味わいは、悲しむべきことに、いっそう深く濃いものになった。(溝ノ口本店 太田)
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実業之日本社
ISBN/JAN
9784408556161