1942年2月7日、少女セラフィマの平穏な人生は崩壊した。ドイツ兵に村が襲われ、村人たちは虐殺されたのだ。
自身も殺される寸前で赤軍に救われたセラフィマは、命の恩人である女性兵士イリーナが教官を務める女性専門の狙撃兵訓練学校に入り、仇を討つために戦うことを決意する……。
2022年本屋大賞を受賞した作品です。当時から話題になっていたので興味はあったのですが、テーマが「独ソ戦」「ソ連軍の女性兵士」ということで「辛そう」という躊躇があって、情けないことになかなか手に取れずにいました。
実際、率直に言って、辛いです。平凡な、本当に普通の女の子だった主人公がすべてを奪われ、人間を撃つことを憶え、いつしか敵を倒したことを───すなわち人を殺したことを誇るようになり、そしてそんな自分に愕然とする。読んでいるだけでも、ものすごく辛いです。
知恵と技術を尽くした「戦い」のシーンは間違いなくとても格好良く、手に汗握ったりもするのですが、それ以上に目を覆いたくなる凄惨さで苦しくなります。登場人物は軍人も民間人も次々に、「何千何百万という犠牲者のひとり」になっていきます。戦争という怪物が普通の人間を容赦なく呑み込んで悪魔に変えていく悲惨さ、さらには同じ軍の中でも平然と存在する差別や偏見、そして戦争の中での性暴力というおぞましい現実が、本当に辛いです。
けれどそこにいるのは確かに人間で、主人公を始め訓練学校の仲間たちにも、転戦しながら出会う戦友たちにも、そして敵であるドイツ兵にもそれぞれの濃密な物語があります。特にセラフィマにとって恩人であると同時に「仇」のひとりであり、最初は冷酷非情な殺し屋のように思えたイリーナの内実には胸が詰まります。
過酷な戦場を生き抜きながら、セラフィマは仲間たちとの絆を結び、狙撃手としてだけでなく、人間として成長します。そして彼女が辿り着く「戦う理由」は、彼女が最後に撃つことになる本当の「敵」とは、彼女の「同志」とは。
重くて辛くて苦しくて、その先に圧倒的な感動が味わえる作品です。読んで良かったと心から思います。(河内長野店 樽野)
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早川書房
ISBN/JAN
9784152100641