人間も一番美しい時に標本にできたらいいのに───。
蝶に魅せられた昆虫学者の心の奥底に閉じ込められていたおぞましい欲望は、画家である友人が集めた弟子の少年たちを前にして鍵を開かれる。この美しい少年たちは蝶なのだ。彼らの標本を装飾し、唯一無二の芸術にしたい。
狂気に満ちた手記から始まる物語はやがて、さらなる戦慄と絶望を募らせていって……。
まずタイトルから漂う猟奇の気配に正直怖気づきました。そして扉をめくるなり現れる口絵イラストの幻想的な美しさと禍々しさ。怖すぎます。この時点で覚悟が要ります。ちなみにお断りしておきますが、内容は容赦なくタイトル通りです。
にも関わらず、これだけすくみ上がりながらもページをめくる手が止まらないのが更に怖いです。どうなっているんですかこの引き込まれ方。
前半は昆虫学者が自分の所業を語る手記(小説投稿サイトにアップされた文章という体裁)に続いてSNSの抜粋という形で事件発覚の概要が描かれ、それで全ては終わったように思えるのですが、後半で一気に……この先はネタバレになるので書けません。どうぞお読みになって、前半に勝る恐怖を存分に味わってください。最後まで一切気は抜けませんので油断なさらぬように。
おそらくは虚実入り交じっていると思われる手記の中にそれでも垣間見える、被害者である少年たちの闇。のどかな別世界のようだった「山の家」と蝶の舞い飛ぶ花畑。その全てを呑み込んでいく狂気。……もう本当に恐ろしいのですが、何より一番怖いのは、ここに語られる「人間標本」をもし見せられたら、おそらく恐怖や嫌悪と同時に「美」を感じ、どこかで惹かれてしまう人は少なからずいるような気がすることです。自分ももしかしたら……。一読以来、蝶が花の周りを飛び交う美しい春の光景を見るたびぞわっとするんですよ!(河内長野店 樽野)
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出版社/メーカー
KADOKAWA
ISBN/JAN
9784041142233