2020年4月、兵庫県尼崎市のアパートで、ひとりの女性が孤独死した。住民票や身元を示す所持品がなく「行旅死亡人」となった自称「田中千津子」さん、推定75歳くらい。残されたのは3400万円あまりの現金、古い写真、星のマークの付いたペンダント、珍しい苗字の印鑑、犬のぬいぐるみ……。
彼女は一体、何者だったのか。興味を惹かれたふたりの記者はその足跡を求めて調査を開始する。ひとりの女性の人生を追い求める、圧倒的ノンフィクション。
事実は小説よりも奇なり。
ありきたりですが、一読してこの言葉が重く胸に響きました。こんなことって、本当にあるんだ、と。
亡くなった女性の遺産の管理人となった弁護士の取材から始まって、記者たちはわずかな手がかりを辿っていきます。警察も探偵も諦めたという調査でしたが、残された印鑑の苗字をきっかけについに身元が判明するまでが前半です。その名が全国で100人くらいしかいないというかなり珍しい苗字でなければおそらくお手上げだったと思われ、本当に事実は小説よりも奇なりです。引き込まれて一気に読みました。
そして、身元が分かったことで更に増えてしまった謎もあります。全ての謎がきれいに解かれてスッキリするわけではないのは小説との違いですね。俗な意味で一番誰もが気になりそうな大金の謎も、なぜ彼女が故郷の家族や友人と縁を切り、まるで世界から隠れようとするかのような生活をしていたのかも、昔深い関わりがあったと思われる男性の素性や行方も、その他の細かな不可解な点も、何より彼女が何を心に抱いて生きてきたのかも、ミステリなら全て伏線として回収され解明されそうなところですが、そうはいきません。
けれどそれがリアルなのでしょう。彼女の人生の真実は本当の意味ではもう誰にも分からない。推測や想像はできますがそれだけです。それでも、いやだからこそ、「千津子さん」は確かに生きていたという事実が大切なことに思えます。それを明らかにしてくれる、素晴らしい本です。(河内長野店 樽野)
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出版社/メーカー
毎日新聞出版
ISBN/JAN
9784620327587