寂れた右京の辻で見つかった遺体は、平清盛が間諜として都に放った「禿髪」の少年だった。知らせを聞いた平頼盛は、下手人を捕らえるべく捜査を開始する。(『禿髪殺し』)
高倉天皇がかつて寵愛した女性の急死には毒殺疑惑があるという。けれど、誰が、どうやって?(『葵前哀れ』)
戦場の土中から掘り起こされた、首のない五つの遺体。恩人である斎藤実盛の体は、どれだ?(『屍実盛』)
貴族の世から武士の世に移り変わろうとする激動の時代を生き抜くため、頼盛はその知恵を武器に謎を解く。平家物語を舞台にした、歴史本格ミステリ。
主人公は平頼盛、平清盛の異母弟でありながら兄に疎まれ、平家都落ちの際に一門と決別、源氏方に近付いて一門滅亡後も生き延びた、史実でもある意味最も賢くしたたかな人物です。平家一門一の知恵者と言われ、また百戦錬磨の武士でもあるそのキャラクターが実に魅力的です。個人的にこういう人が好きなこともあり、とても引き込まれました。
頼盛の目的は明確です。自身と愛する家族、そして自分の率いる池殿流平家の家の子郎党を守り抜くこと。そのためならば何でもする。禿髪殺しの捜査をするのはそれによって兄清盛の歓心を買うためですし、斎藤実盛の遺体を見定めようとするのは都に入った木曽義仲に頼まれた(半分脅迫)ためです。懸命に謎を解きながらその裏で策を練り、一切ブレることなく目的を達しようとするそのたくましさに惚れ惚れします。彼が棟梁であれば平家はここまで栄耀栄華を極めることもない代わりに滅びることもなかったのではないでしょうか。権力者に振り回されて右往左往しているばかりに見せかけて、大した策士ですよ。格好良すぎます。
ままならぬ中でも腐ることなく、蛹となって耐え忍ぶことを知っている彼は、誰よりも見事に舞ってみせた蝶だと思います。もちろん、本格ミステリとしても、とても面白いので是非ともお楽しみください。(河内長野店 樽野)
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出版社/メーカー
東京創元社
ISBN/JAN
9784488426217